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URTエレメントを床版に用いた
RCラーメン高架橋の設計

技術部

  • 橋本 光弘
  • 杉本 克久
  • 辰巳 喜比古
  • 津田 直幸
  • 松下 逸雄

論文要旨

 近鉄京都線東寺・竹田間連続立体交差化工事は平成5年より着工、平成11年11月に高架切換えを完了しており、全長1,977mの鉄道高架工事である。
 本稿では高架化区間の起点側で実施している既設盛土部の高架橋化について述べる。本区間は用地の制限上仮線工法が採用できず、既設石積盛土が残存していたためURT工法を採用した。営業線軌道をURT桁(鋼製箱型パイプルーフ)で仮受けし、最終的にURTエレメントを軌道スラブとして使用したラーメン高架橋を計画し、平成14年8月に完成予定である。なお耐震設計は平成11年10月に「鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計」の発刊直前で、既刊の「同標準(案)」に準じ、(財)鉄道総合技術研究所の御指導を得て大地震対応の設計照査を行った。
 本稿では工事概要および工法選択、施工方法、設計について報告する。
 キーワード:URT工法、耐震設計、営業線直下施工、軌道仮受構造

1.まえがき

 連立事業全長1,977mのうち仮線工法によって構築された高架区間はすべて高架切換えが終わっており、本稿で報告する区間の既設石積盛土は全長約76mで近鉄京都線東寺駅の南側に位置している。
 構造形式は事業主体の京都市や地元の要望より、高架下利用として公共施設となる駐輪場の設置、また軌道が500mm以上嵩上げされるため高架橋化が課題となり、1層3径間RCラーメン高架橋2基、RC単版2基とした。
 用地制限のため仮線工法を採用できないためURT(Under Railway Tunnel)工法により営業線軌道(複線)を仮受けし、既設盛土を撤去、その後RCラーメン高架橋をURT桁の下で築造しURTエレメントを本設スラブとする工法を計画した。

2.工法選択

 仮線工法によらないで盛土を撤去して高架下空間を利用可能とする工法として軌道を直接本設構造物で支持する工法と、仮設構造物で支持する工法がある。
(1) 本設構造物で直接軌道を支持する工法
軌道を直接本設構造物で支持するほうが、一般的に経済的と考えられる。以下に検討対象となる工法を示す。
①URT(PCR)工法
 本工事で仮設として採用したURT桁を本設とする工法である。図-1に示す支持杭と受梁を本設構造物とし、鋼製(URT)あるいはPC製(PCR)の箱型桁で軌道を支持する工法である。この工法の問題は以下のとおりである。
・支持杭および受梁を用地内に設けることが不可能。
・エレメントと受梁を剛結構造とすること、また耐震性能の確保が困難である。
・施工余裕等の関係で鋼製あるいはPCエレメントを1本物とすることが出来ず、継手が必要となり鉄道の本設構造としての実績がない。
②R&C工法
 盛土横でボックスカルバートを築造し、盛土内に推進・挿入する工法であるが以下に問題がある。
・ボックスカルバートを線路方向に並べるため、高架下利用の自由度に劣る。
・基礎杭を必要とする地盤では適用できない。
以上、いずれの工法も適用が困難であり、軌道を本設で支持する工法の適用が出来ない。

図-1 仮受構造[図-1 仮受構造]

(2)仮設構造物で軌道を仮受けする工法
 軌道を仮受け、他の高架区間と同様に安価で耐震性能に優れるRCラーメン高架橋を築造するためには下記の工法がある。
①仮桁工法
 スパン10mの連続する仮桁(槽状桁)で軌道を支持し、仮桁は仮橋脚で支持する。鉄道軌道を仮受けする工法としてはポピュラーな工法であるが、既設盛土内にはコンクリート等の地中障害物が存在するため、軌道内での夜間施工となる支持杭の打設のためには、事前に障害物の破砕が必要となり、表-1に示すように、工費、工期、沿道騒音の面でURT仮受け工法に劣るため採用しなかった。
②URT仮受け工法
 比較表に示すように仮桁工法に優るため採用した。なお今回採用した工法はURTエレメントを仮設のみでなく、本設スラブとする点に特徴がある。

表-1 仮設構造物で軌道を仮受けする工法比較[表-1 仮設構造物で軌道を仮受けする工法比較]

3.施工

(1)仮設構造物
 軌道仮受けに使用するURT桁の1エレメントは鋼製で「内空600mm×1000mm:フランジ厚25mm、ウェブ厚14mm」で構成されている。(図-2)

図-2 エレメントの構成[図-2 エレメントの構成]

 これを線路方向に65本使用する。このエレメントを軌道下、レール面から790mmの深さで軌道直角方向に推進・挿入する。なお推進は終電から始発までの夜間に実施する。この施工手順を以下に示す。

① 既設の石積に腹起しを設置し、タイロッドで緊張して盛土を補強する。
② 線路両側に支持杭を打設し受梁を設置する。
③ URT推進架台を設置する。架台移動用のレールを線路方向に設け、ステージングを設置し、掘削機および推進装置を架台に設置する。
④ URTエレメントを推進・挿入する。エレメントを架台に設置し、受梁をガイドとし、水平オーガー掘削機(ダブルウォーム式カッターヘッド)によってエレメント内の土を掘削、排土しながら推進装置によって盛土内に挿入する。なお推進の反力は支持杭によりとることにした。これを65本挿入し、軌道直角方向スパン13.3m、軌道方向延長76mの仮受けを構築する。

 エレメント長は13.9mであり、搬入および施工スペースの制限のため3分割している。内訳は到達側2.65m、中間部9.30m、発進側1.95mでありハイテンションボルト接合とした。なお中間部を最終的に本設スラブとして利用する。
 また、エレメント内および線路方向のエレメント継手部の空洞は騒音・振動の弱点となるため中埋めする。仮設時はエレメント継手部を流動化コンクリートで間詰を行い、エレメント内部は本設構築完成時に発泡モルタルを充填する。

(2)本設構造物
 仮受け完了後に図-7に示すRCラーメン高架橋を築造する。この施工順序を以下に示す。
① 盛土、地中障害物撤去
② 基礎杭打設。基礎杭は場所打ち杭であり、仮受け下の施工となるため底空頭のTBH工法により行う。また、柱の主筋は中間部で1箇所継手を設けた。
③ 地中梁築造
④ 柱築造
⑤ 上層梁築造

 上層梁とURTエレメントの接合は図-4に示すように1ヶ所当たり4本のアンカーボルトを用いた。また、上層梁のコンクリート打設はエレメントに打設孔を設けて行った。
 コンクリート打設終了後にURT桁との隙間に膨張性流動化コンクリートを打設し一体化を図るが、完全に充填が出来ない場合を想定し、防錆のためにアンカーボルトはステンレス製を用いた。

図-3 推進架台設置状況[図-3 推進架台設置状況]

図-4 URTエレメント、上層梁接合方法[図-4 URTエレメント、上層梁接合方法]

4.設計

(1)仮設構造物
 仮設構造物の供用期間が約2年であるため、耐震性能を中地震(設計水平震度Kh=0.2)とした。また、設計法は許容応力度法とした。
 URTエレメントを支持する支持杭は図-5のように軌道方向に3m間隔で設け、3ヶ所の工事用進入路では4mとした。支持杭についてはURT桁下で本設構造物を構築するために、軌道直角方向の13.3mスパン間には補強材を設けることが出来ないので杭材はH-500×500×25×25を用いた。さらに杭打設の鉛直精度の誤差による曲げモーメントを考慮し、ラーメン高架橋の地中梁掘削時の杭突出長が最大となる時点での地震力に対し支柱が耐力不足となるため、厚さ25mmの補強プレートを最大曲げモーメントが発生する点のフランジ両面に溶接補強した。

図-5 軌道方向 仮設構造[図-5 軌道方向 仮設構造]

図-6 URT高架橋 一般図[図-6 URT高架橋 一般図]

(2)本設構造物
 設計時期が、鉄道構造物の設計基準の変遷時期であり、耐震設計基準は「新設構造物の当面の耐震設計に関する参考資料」(平成8年3月(財)鉄道総合技術研究所:以下当面の参考資料という)で開始したが、まもなく、平成10年11月に「鉄道構造物等設計標準・同解説:耐震設計(案)」(以下耐震設計(案)という)が(財)鉄道総合技術研究所からが発刊された。このため、耐震設計は「当面の参考資料」で実施後、「耐震設計(案)」に従い非線形解析を行い、耐震性能を照査した。
 設計上の問題は鋼製URTエレメントをRCラーメン高架橋のスラブとして用いることと、「耐震設計(案)」による耐震性能照査である。

①鋼製エレメントをスラブに使用するための問題点と解決策
URTは個々の鋼製エレメント間が施工時ガイド用の爪だけで連結されているのが普通であり、これをRCラーメン高架橋のスラブとしての問題点は下記のとおりであり、対策を表-2に示す。

 ・列車荷重載荷部と非載荷部のエレメント間で鉛直力差によるせん断力差を伝達できない場合は、スラブとしての耐久性に劣る。
 ・水平力に対してズレ(図-7)が生じる場合は、「剛床版」を前提とする、各ラーメンの地震時水平分担式が適用出来ない。
 ・エレメントと縦桁(上層梁)との接続方法。
①鉛直力差による
せん断力の伝達
エレメント継手部に流動化コンクリートを充填して、対応する。
②水平分担式の適用について ①の対応策に加え、安全性を考慮しエレメントフランジ上面に鋼板を溶接する。
③接続方法 縦梁とエレメントをアンカーボルトにて接合し、地震時水平力によるせん断力に対し安全性を確保する本数を配置する。

[表-2 URTエレメントをスラブに使用するための解決策 ]

図-7 せん断ズレ イメージ図[図-7 せん断ズレ イメージ図]

②「耐震設計(案)」による耐震性能照査
 今回設計する高架橋は都市圏の旅客輸送の分野で重要な役割を果たしており、大都市旅客鉄道の構造物と位置付けられ、構造物の耐震性能は表-3に示すように設定した。
耐震性能Ⅱ 地震後に補修を必要とするが、早期に機能が回復できる。

[表-3 耐震性能 ]

 「当面の参考資料」により耐震設計を一度行っているため、非線形スペクトル法による静的非線形解析はL2地震動のみで照査を行った。その際、L2地震動に対する所要降伏震度スペクトルが必要になったため、地盤の逐次非線形解析を行い、構造物への入力地震動を算定し、この波形に対しての所要降伏震度スペクトル作成(図-8)を(財)鉄道総合技術研究所へ依頼した。
 これは、平成10年11月発刊の「鉄道構造物等設計標準・同解説:耐震設計」には付属資料6-1として、各地盤種別毎に所要降伏震度スペクトルは用意されているが、本設計に使用した「耐震設計(案)」には未だ用意されておらず、別途作成する必要があったためである。
 以上の条件を揃えた後、行った解析結果を表-4にまとめた。

図-8 所要降伏震度スペクトル[図-8 所要降伏震度スペクトル]

橋軸方向 橋軸直角方向(端部) 橋軸直角方向(中間部)
降伏震度 (Khy) 0.60 0.59 0.72
初降伏部材
降伏変位 (cm) 3.60 5.08 6.48
等価固有周期 (sec) 0.47 0.53 0.58
降伏震度 4.30 4.10 2.80
最大応答変位 (δsd) 15.48 20.84 18.14
損傷レベルの照査 2 2 2
上層梁 2 2 1
地中梁 2 2 2
安定レベルの照査 杭損傷レベル 1 2 1
基礎安定レベル 1 2 1
最大応答変位 (δsd) 15.48 20.84 18.14
耐震性能(δsd)

[表-4 耐震照査結果一覧 ]

 参考に損傷レベルを判断する際に使用した、荷重変位曲線を橋軸直角方向(中間部)を用い、下図に示す。(図-9)
 図中の○印は初降伏部材を示し、△印は初終局部材、×印は初崩壊部材を示す。部材はそれぞれ柱であり、また終局は最大応答変位時以降で発生しているので、耐震性能Ⅱを満足する結果となった。しかし本設計は「当面の参考資料」により部材を決定しているため、部材断面が大きくなっており「耐震設計(案)」による照査で確認できるように初降伏震度が大きくなってしまった。これは、初めから新耐震基準で設計を行い、部材設定をすれば、初降伏震度も抑えることが可能となり、よりスレンダーな構造物となると考える。

図-9 荷重変位曲線[図-9 荷重変位曲線]

5.あとがき

 鉄道構造物で例のないURTエレメントを床版に用いた構造であったため、施工計画段階および耐震設計を行う上でかなり苦労した結果、要望を満足する構造物を設計および施工することができた。
 今回の設計では、URTエレメントとRC部材の完全一体化は図っていないが、PCアウトケーブル等で対応出来ればRC部材断面の縮小が可能となり、経済的効果も表れるのではないかと思われた。
 今後、URT工法の新たな発展を期待し、本稿が新技術発達の手助けになればと考える。
 最後に、本報告の作成にあたり多大な協力を頂いた、近畿日本鉄道株式会社ならびに関係各位に、深く御礼申しあげる次第である。

参考文献

1) 鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計(案)(財)鉄道総合技術研究所、平成10年11月
2) 鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計 (財)鉄道総合技術研究所、平成11年10月

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