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安全・円滑・快適な立体的歩行空間の整備

技術部

  • 清水 哲夫
  • 成井 正孝
  • 岡本 悦男
  • 福岡 正浩
  • 鏑木 敏和

論文要旨

 都市の中心市街地に位置する、鉄道駅および周辺地区における交通結節点の機能低下を改善するために、新たに創設された道路交通環境改善促進事業を用いて、官民の協力と連携により、歩行者を中心とした安全かつ円滑で快適な道路交通環境を確保し、バリアフリーに配慮した立体的な歩行ネットワーク空間を整備した。
 全国で最初に道路交通環境改善促進事業が採択された箇所のひとつである、近鉄大和高田駅周辺地区の事例を紹介する。当該地区の具体的問題点と、沿道空間の活用という同事業の特徴を活かした対応策について述べ、市街地における安全かつ円滑で快適な立体的歩行空間の整備に同事業が有効な一手法であることを報告する。
 キーワード:交通結節点、安全・円滑・快適、バリアフリー、立体的歩行空間、道路交通環境改善促進事業

まえがき

 大和高田市は、奈良県中西部に位置し、人口約75,000人を有する奈良県下の主要な都市である。
  大和高田市の中心市街地である近鉄大和高田駅周辺地区は、鉄道と主要な道路が交差する交通の要衝であり、結節点である。JR和歌山線・桜井線と近接する近 鉄大阪線は、近鉄大和高田駅の西側で県道河合大和高田線と平面交差した後、盛土構造となり、同駅東側で主要地方道大和高田斑鳩線(以下大和高田斑鳩線と言う)の上を、架道橋で立体交差している。近鉄大阪線下を立体交差する大和高田斑鳩線は、駅前広場を介して駅施設と連絡している。
 近年、同地区は、駅利用者の増加による駅前広場の機能低下、自動車交通の増大と大規模商業施設等の立地による周辺道路の混雑、また、既存駅前商店街の近代化の遅れによる地元商業活動の低迷等の問題点が目立ってきた。
 このような問題を解消し、同地区の活性化を図るため、平成10年6月に、奈良県、大和高田市、近畿日本鉄道株式会社、株式会社ユニチカオークタウンの官民協力による、近鉄大和高田駅周辺地区整備事業が計画されることになった。
 近鉄大和高田駅周辺地区整備事業の中心となる事業手法が、平成10年度に創設された道路交通環境改善促進事業である。
  道路交通環境改善促進事業とは、市街地における安全かつ円滑で快適な道路交通環境を確保するために、「道路空間と一体になって機能する沿道等の空間」を活用して、歩行者通路や交通広場等の整備を推進する事業である。すなわち、「道路区域外の民地等」を活用して安全かつ円滑で快適な道路関連施設が整備できる事業である。
従来、用地等の制約で、公共事業として実施困難であった施設整備が、同事業により可能となる。以下に実施可能なメニューを示す。
 ① 鉄道駅周辺の自由通路や交通広場等の整備
 ② 沿道敷地を利用した歩行者専用デッキの整備
 ③ 沿道建築物の一部壁面後退などによる交差点付近の安全な歩行空間の確保
 ④ 沿道建築物と一体となった道路横断施設
 ⑤ 沿道建築物や沿道敷地を利用したバス停や自転車駐車場整備
 以下に当該地区の問題点と対策を示し、上記の道路交通環境改善促進事業のメニューの内、本事例で実施した①・②・③・⑤の具体的な整備計画を中心に報告する。

1.問題点と対策

 中心市街地である近鉄大和高田駅周辺地区の再生を、道路交通環境および地区活性化の視点で捉え、個々の問題点と対策を、整備課題と整備目標に分類して、表-1および図-1,図-2に示す。また、写真-1に事業後(駅前広場側)の状況を示す。
整備課題:安全で快適な歩行空間の確保 整備目標:安全で快適な歩行空間の形成


①近鉄架道橋(以下、第1陸橋という)付近の大和高田斑鳩線の歩道幅員が約2mと狭く安全・円滑・快適な歩行ができない。同橋梁の拡幅は多大な工費を要し困難である。
②駅北西地域からは河合大和高田線の築山第7号踏切を通り駅舎にアプローチしている。
③駅前広場の駅舎前の歩 道では、駅の乗降客、大和高田斑鳩線沿いの歩行者、大国町商店街からの歩行者およびスクランブル横断歩道の歩行者が輻輳し、円滑・快適な歩行ができない。 特に利用の多い駅直近のスクランブル横断歩道では、大和高田斑鳩線の他、駅前広場・交差市道の車両が加わり、歩行者の安全度が低い。また、歩行者の信号待 ち時間が長く時間損出が大きい。(大和高田斑鳩線横断歩行者数 12,900人/日)
④駅前広場の歩道幅員が2mの区間があり、歩行者および自転車の安全・円滑・快適な通行ができない。

①駅北側地域の歩行者に利便を図るために、第1陸橋の西側に、自転車を含む歩行者類を対象として、鉄道盛土を南北に横断する自由通路を設ける。
②線路北側に河合大和高田線から大和高田斑鳩線までの自転車歩行者道を設けた
③⑤⑥歩行者の安全かつ 円滑で快適な歩行空間を確保するため、駅ビル・大規模商業施設オークタウン・大国町商店街・駐輪場を相互に連絡する歩行者専用デッキを大和高田斑鳩線およ び駅前広場上空に設け、歩車分離を行い、スクランブル横断歩道を廃止した。また駅前広場の再整備により、歩行者動線を、適切な幅員で立体的に整理誘導す る。 ④歩道幅員は駐輪場前で3.5m、その他では4.5m以上とする。・各施設にはエレベーターを設置し、バリアフリー化を行う。(駅ビル・オークタウン・バス乗り場・駐輪場)
整備課題:交通混雑の低減 整備目標:交通混雑の低減と駅前広場の
機能回復


⑤スクランブル横断歩道による車両渋滞が著しい。(大和高田斑鳩線通行車両台数 21,600台/日)
⑥バス乗り場が島式のため、バスの乗降客は、駅側から駅前広場内の車道部を横断する必要があり、安全度が低い。(バス出入り台数 400台/日)
⑦駅舎前にタクシー乗り場があるため、県道との交差点の滞留長が短く、駅前広場内が渋滞しやすい。また、大国町商店街からの車両とタクシーが交錯している。(タクシー停車台数 25台)0人/日)

⑤スクランブル横断歩道を廃止することにより、交差点の安全性、車両渋滞の解消を図る。
⑥歩車分離を図り、バス乗り場へは、歩行者専用デッキの階段とエレベーターで昇降し、駅前広場の車道横断を廃止する。
⑦駅前広場のゾーン別再整備を行うとともに、適切な路面表示とタクシーおよび一般車両の駐車スペースを着色舗装で区別し、タクシーの走行と大国町商店街からの車両の走行が交差せずに、また交差点滞留長が極力長くなるように改善した。
整備課題:地区活性化 整備目標:駅前地区イメージの刷新と
集客施設間の回遊性の増進


⑧駅舎が、築50年以上の木造家屋であり、老朽化による機能低下がみられる。(大和高田駅 乗降人員 21,000人/日)
⑨盛土ホームと独立平屋の駅舎改札に高低差があり、バリアフリー化工事の必要がある。
⑩駅舎の老朽化や、駅前に利用者が集うオープンスペースがないため、都市の表玄関として、貧弱な印象を受ける。
⑪大国町商店街のアーケードは、歩行者と車両が輻輳し、同商店街の商業活動を阻害している。

⑧地区周辺整備事業との一体的計画で駅施設と商業施設を収容する駅ビルを新設し、機能向上による乗降客の利便性を高める。
⑨駅ビルに2階改札口を設け、上り線ホームと歩行者専用デッキを同一面で接続する。更にエレベーター、エスカレーターを設置する。
⑩駅施設等の集約により生まれる空間を、人が集うオープンスペースとして整備し、駅ビル等の整備も含め、表玄関にふさわしい景観を創出する。
同商店街の活性化と歩行者の安全確保のため、アーケードを歩車共存道路として再整備する。

[表-1 問題点と対策]

図-1 事 業 前[図-1 事 業 前]

図-2 事 業 後[図-2 事 業 後]

写真-1 事業後(駅前広場側)[写真-1 事業後(駅前広場側)]

2.整備計画

前項の図-2に示した整備計画の内容を表-2に示し、主要施設の特徴と留意点を述べる。
事業区域 近鉄大和高田駅周辺       約0.7ha
事業期間 平成10年度~平成13年度(4ヵ年)
事業内容と
施設

・奈良県
 近鉄線下横断自由通路
 歩行者専用デッキ(A,B,D橋)
 エレベーター
 駅前広場
・大和高田市
 自転車歩行車道(近鉄線路北側)
 駅前広場

約15m
約128m
3基
1式

約195m
1式






・大和高田市
 歩行者専用デッキ(C橋)
 エレベーター
 歩車共存道路

約32m
1基
約207m
・近畿日本鉄道株式会社
 駅ビル新設
 構内エスカレーター
 構内エレベーター

1式
1基
1基
・株式会社ユニチカオークタウン
 エスカレーター
 エレベーター
 リニューアル工事

3基
1基
1式

[表-2 整備計画の内容]

1) 線路下横断自由通路

 線路を挟む南北地区の主軸として位置づけた線路下横断自由通路の幅員は、歩行空間の快適さを考慮して、6mとした。
 なお、内空高さは、仕上げ寸法で2.50m以上とした。
 構造物の主要寸法と交差位置を、表-3に、断面図を図-3に示し、事業後の写真を写真-2に示す。
函体寸法 内径6.0m×内空高(2.60m~3.18m)
函体延長 15.2m(線路中心をセンターに各7.6m)
土被り 840㎜ 840㎜ (RL~函体天端)
交差位置 大阪線 上本町起点 30k105m(大阪線架道橋中心より西側へ約21m)

[表-3 近鉄線下横断自由通路の主要寸法と交差位置]

図-3 近鉄線下横断自由通路断面図[図-3 近鉄線下横断自由通路断面図]

写真-2 事業後(近鉄線下横断自由通路)[写真-2 事業後(近鉄線下横断自由通路)]

2)歩行者専用デッキ

  表-2の対策に示したように、大和高田斑鳩線や駅前広場の車両から歩行者の安全を確保するには、歩行者を自動車交通から分離することが重要であった。当面、大国町商店街からの車両を遮断できないので、駅前広場周辺部の歩道に接してバスを配置する等の大幅な変更は困難であった。したがって、歩行者専用デッキは、図-4に示すとおり、駅前広場中央部のバス乗り場から四方の重要施設を結ぶ十字型の形状とした。
 スクランブル横断歩道の直近で、既設の階段・エスカレーターと歩行者専用デッキの取り付けスペースを持つオークタウン北西角地は、歩行者専用デッキ取り付け位置として、駅東側の歩行者の利便に配慮した最善の位置である。
 既設建築物であるオークタウンへの接続は2階のオープンスペースを利用し、スロープで取り付けた。
 歩行者専用デッキの昇降形式は、階段の他に、バス乗り場、駅ビル内、オークタウン、南側公園内にもエレベーターを設け、高齢者や身障者等に配慮した。
 また、オークタウンでは、利用者の利便性向上のため、既設エスカレーター横に下りエスカレーターを増設した他、同施設中央部にエレベーター1基、エスカレーター2基を増設した。
 バリアフリーの一環として、要所に設置の点字シール付き案内標識と手摺の点字シールで、視覚障害者を含めた立体的な動線誘導を図った。
 歩行者専用デッキの構造は、桁下空頭の確保と接続箇所の高さおよび緩勾配(オークタウンとの取り付け部の5%を除き、2.5%以内)での取り付けを考慮すると、必然的に桁高に制限を受けたため、脚柱頭部を剛結したラーメン構造の鋼床版版桁を採用した。
歩行者専用デッキの幅員を、表-4に示す。

図-4 歩行者専用デッキ一般図[図-4 歩行者専用デッキ一般図]

A橋 B橋 C橋 D橋
3.0 5.5 2.0 5.5

[表-4 歩行者専用デッキの幅員(単位:m)]

 同地区の良好な都市空間の形成に、歩行者専用デッキの果たす役割は大きい。今後、地域のシンボルとなり、ランドマークとなるためには、長く地域に親しまれる質の高い機能性と景観性が求められる。以下に留意したポイントを列記する。

①桁高が小さく、脚柱に受け張りがないラーメン構造から生まれる、安定性・スレンダーな軽やかさが良好な景観を形成する

②桁カバーは鳥の糞害防止機能のほか、桁側面から桁下面にかけて構造部材の雑多感を隠し、すっきりした景観を形成する。耐候性・耐久性に優れるアルミ製とした

③橋面工は、ミニマムメンテナンスで長期間良好な質感が保てるように、安全性の他、耐候性・耐久性に優れる磁器質タイルを採用した

④高欄は、安全性のほか、橋面工と同様、ミニマムメンテナンスで長期間良好な質感が保てるように耐候性・耐久性に優れるアルミ製を採用した

3)駅前広場

 当面、大国町商店街からの車両を遮断できないので、駅前広場(既存部)は大幅な施設配置の変更は出来ない。そこで、バスと、タクシー・一般車を分離し、タクシー乗降部を移動・増設することで、駅舎前付近で輻輳していた車両が、円滑に通行できるようにした。
駅前広場(既存部)の計画高は、歩行者専用デッキの必要桁下空頭4.7m以上を確保し、大和高田斑鳩線への流入部交差点の滞留部を緩勾配とするため一部70㎝程度下げたが、周辺との取り付けの関係で大きな変更は行っていない。
今回新設された駅ビル東側のオープンスペースは、駅ビル内に整理収容する駅施設や、店舗跡地により生まれる空間を活かして、整備するもので、線路下横断自由通路や既存駅前広場の部分整備と一体となり、人が集い憩うことができる良好な都市空間として形成された。
駅前広場として整備する面積は、全体で約4,000㎡であり、駅前公園部約600㎡、既存部約2,800㎡、駅ビル南側の歩道相当部約100㎡、南側公園部約500㎡である。
南側公園は、既存の噴水を残し、新たに花壇をしつらえた、憩いと潤いのあるポケットパークに変身した。歩行者専用デッキ等の新設設備のため、既存駅前広場の植樹帯を、やむなく廃止したため、南側公園は貴重な緑地スペースとなっている。
駅前広場の歩道部は、排水流末に極力負荷をかけず、滑りにくく、水跳ねがない等の歩行性能に優れる、自然石の種石を用いた透水性平板ブロック舗装を、ほぼ全面的に採用した。視覚障害者用誘導ブロックも同様のものを使用した。

4)駅ビル

 鉄骨造、2階建て一部3階建て、延床面積1,683㎡の駅ビルを計画するにあたり、鉄道事業者が留意した主な点を示す。
a.官側の周辺整備事業との一体的な計画による駅施設の利便性向上とバリアフリー化を行った。
 前出の表-2に示すように、鉄道事業者は、道路交通環境改善促進事業で整備する歩行者専用デッキとの一体的計画を行い、駅ビル施設の配置に活かした。
 歩行者専用デッキの有用性、利便性を高めるため、駅ビル2階部分で接続した歩行者専用デッキと、駅ビルの2階部分に設けた改札口を同一面で接続し、歩行者専用デッキからの利用客が、一旦1階部分に降りることなく直接上りホームに行くことのできるように計画した。
 駅ビル外周部の歩道と接する近鉄用地は、壁面後退により歩道の用に供した。
 駅ビル内(駅構外)のエレベーターを、歩行者専用デッキや線路下横断自由通路の歩行者が円滑に利用できるような位置に配置した。
 駅ビルにはエスカレーターも設置した。歩行者専用デッキからの利用者の利便性を考慮し、上り、下り専用の1方向で配置した。
b.ビルの行政業務利用
 駅ビルには駅施設と商業施設に加え、大和高田市の行政サービスセンターが配置され、市民に利便を図った。
c.デザイン・シンボル
 景観的に優れた駅ビルは、歩行者専用デッキとともに地域のランドマークであり、シンボルとなる。
 同地区付近は、地域のシンボルとして市民に長らく親しまれていた赤レンガ造りの紡績工場の跡地である。駅ビルの外壁には、レンガ調のタイルを採用し、駅前広場に面する正面ゲートは、擬石で縁取ったアーチ状のガラススクリーンを採用した。

 古いものと新しいものの調和を図り、経年により陳腐化しないデザインとした。

5)下り線昇降施設改良

 下り線ホームに高齢者・身障者等に対応した設備として、連絡階段を上本町方へ14.5m移設し、エスカレーター及びエレベーターを各1基設置した。

6)駅北側自転車歩行者道

 道路交通環境改善促進事業の一環として、駅北西部の自転車と歩行者の駅方面へのアクセスとして、駅北側に高田川沿いの県道河合大和高田線から大和高田斑鳩 線までの約195mを、幅員3m・最大縦断勾配6.5%の自転車歩行車道として、一部近鉄用地を擁壁で切土し整備した。線路下横断自由通路と結び、歩行空 間をネットワーク化した。

7)大国町商店街道路改良

 駅西側に位置する大国町商店街は、駅に通じる北向き一方通行の 道路であり、買い物客の往来はもとより通勤時間帯は車両と歩行者が輻輳していた。大和高田市は、商店街の活性化と歩行者の安全確保のため、イメージハンプ・狭さく・ボラード等の手法を用いて歩車共存道路として再整備した。

あとがき

 平成10年度から計画された近鉄大和高田駅周辺地区整備事業は、道路交通環境改善促進事業も含めて平成13年度末に無事竣工し、一体的に整備された各施設が、順調に供用されている。
 本稿の主題である、安全かつ円滑で快適な歩行空間の確保は、計画途上で改訂された、道路構造令の歩道等に関する基準や、交通バリアフリー法で規定された内容を概ね満たす、高い整備水準であった。車両混雑の緩和も含め、効果を上げている。
 今後も、民間活力を用いた効率的な社会資本整備が大きな流れであり、本事例のような交通の結節点である駅周辺の機能向上や中心市街地における道路交通環境を総合的に改善する一手法として、道路交通環境改善促進事業の有用性は高い。
 最後に、本稿の作成に当たり、ご指導とご協力をいただいた、奈良県、大和高田市、近畿日本鉄道株式会社のほか関係各位に深く感謝いたします。

参考文献

  1)近畿日本鉄道株式会社鉄道事業本部:大阪線大和高田駅駅ビル等改良工事について、
 第54回保線講話会講演概要、H.14.3、pp1-1~1-34

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