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営業線直上の高架橋構築に伴う
軌道仮受構造の計画

技術部

  • 猟山 勝次
  • 吉見  隆
  • 岩永  勉
  • 木村 泰三
  • 抱  正和

論文要旨

 鉄道の連続立体交差化事業は、用地の制限のなかで、営業線の安全走行および利用客の利便性を確保し、線路の数段階の切り替えを行いながら本設構造物を分割施工することが一般的である。  今回報告する近鉄名古屋線伏屋・黄金間連続立体交差化工事においても同様であり、用地の制限により、地上仮線と計画線および高架仮線が交差する区間がある、この区間では、高架上の仮設橋梁に仮線を切り替えて、この仮線の直下で本設構造物RC高架橋を構築する。  そこで、この営業線の直上でRC高架橋を構築し、かつ安全に列車が運行できる軌道仮受構造の計画について報告する。  キーワード:軌道仮受構造、営業線直上施工、RC高架橋の分割施工、高架上の仮線

まえがき

 現在、近畿日本鉄道株式会社(以下、近鉄という)においては名古屋線伏屋・黄金間の連続立体交差化工事に着手しており、平成16年3月工事完了を目指している。
  この連立工事のうち、地上仮線と計画線および高架仮線が交差する区間がある、この区間は用地幅が狭く、現在線および仮線と本設構造物との離隔が非常に狭いので本設構造物が複数の分割施工となる、また、仮線の用地も狭いため、線路の切替段階も複数回必要となる、この大きな理由のとして、近鉄線と併走するJR 線も同時期に高架化工事を行い、使用する用地に制限があるためである。
 一般的には、現在線から仮線あるいは計画線への切替段階およびRC高架橋の施工段階に応じた計画を行う、この計画とは、RC高架橋を一括施工あるいは2分割施工とし上り線、下り線を一括あるいはどちらか1線ごとに現在線あるいは仮線から計画線へと切り替えていく1線1柱方式のことである、しかし、地上仮線と計画線および高架仮線が交差する区間では列車を現在線から仮線、さらに高架上の仮線に切り替えない限り、RC高架橋が構築できない、また、このRC高架橋が構築できないと高架上の仮線から計画線への切り替えも行えないことになる。
 そこで、この営業線(地上仮線)に支障することなく、この直上でRC高架橋を構築し、かつ安全に列車が運行できる軌道仮受構造を計画する。

1.本設構造物の施工段階

 地上仮線と計画線が交差する区間は全長90mであり、この区間に位置する本設構造物は次の通りである。
 ① 2柱式4径間RC高架橋 (2R4-10)
 ②橋長10mRC単版桁 (S-41)
 ③2柱式4径間RC高架橋 (2R4-11)
 この交差する区間の線路切替段階に対応したRC高架橋の施工段階および後述する仮受構造物の平面図を図-1、代表的な横断図を図-2に示す。

図-1(a) 軌道平面図[図-1(a) 軌道平面図]

図-1(b) 基礎平面図[図-1(b) 基礎平面図]

図-2 線路切替段階に伴うRC高架橋、軌道仮受構造の施工段階[図-2 線路切替段階に伴うRC高架橋、軌道仮受構造の施工段階]

 まず、2R4-10・C3~2R4-11・C3通り間の代表断面である図-2(b)に示す2R4-10・C3と図-2(d)に示す2R4-11・C2のRC高架橋の施工段階をまとめると表-1のようになる、なお、図-2は表-1における施工段階のうち、第2段階の状況を表したものである。
 次 に、2R4-10・C1、C2は L1(下り線部)側高架橋、2R4-11・C3~C5は L2(上り線部)側高架橋、すなわちRC高架橋の1線 (高架橋幅の1/2幅)分が構築できる、このため、仮受構造の必要はなく、高架切替が可能である(図-1、2(a)参照)、このように、高架橋全幅の1/2を構築し、1線分の線路を高架に切り替える形式を1線1柱方式といい、この1線1柱方式における設計は施工時扱いで、その手法には許容応力度設計法を用いた、また、完成時の耐震設計手法には、新設構造物の当面の耐震設計に関する参考資料を用いた。
施工段階 2R4-10・C3 2R4-11・C2
RC高架橋 仮受構造物 RC高架橋 仮受構造物
第1段階 上り線を現線から地上仮線に切替後、L2(上り線部)側基礎杭、地中梁の構築(1次施工) L2(上り線部)側地中梁袴部拡幅および仮受柱の設置 上り線を現線から地上仮線に切替後、L2(上り線部)側高架橋の構築(1次施工)
第2段階 下り線を現線から地上仮線に切替後、L1(下り線部)側高架橋の構築(2次施工)   下り線を現線から地上仮線に切替後、仮受杭・柱の施工
第3段階   仮受上部工の設置後、下り線を地上仮線から高架仮線に切替   仮受上部工の設置後、下り線を地上仮線から高架仮線に切替
第4段階 L2(上り線部)側柱、上層梁、スラブおよび地中梁の構築(3次施工) L1(下り線部)側高架橋の構築(2次施工)
第5段階   仮受上部工の撤去後、下り線を高架仮線から計画線に切替   仮受上部工の設置後、下り線を地上仮線から高架仮線に切替
第6段階   上り線を地上仮線から計画線に切替後、仮受柱の撤去   上り線を地上仮線から計画線に切替後仮受柱の撤去、仮受杭の埋殺し(存置)
第7段階 L2(上り線部)側高架橋の未施工部分の構築(4次施工) L2(上り線部)側高架橋の未施工部分の構築(3次施工)

[表-1RC高架橋および仮受構造の施工段階]

2.仮受構造

 軌道仮受構造が必要な区間は、線路切替段階および本設構造物の施工段階より2R4-10・C3~2R4-11・C3通り間の50mである。(図-1、2参照)。
 この区間における軌道仮受構造を次のように計画した。

(1)上部工
 仮受構造の上部工を計画する上での主な条件は次の通りである。

①仮受上部工の全桁高(支承高含む)はRC高架橋スラブ天端~計画R.L.-0.030の間の710mm以内を原則とする。このうち、計画R.L.- 0.030は軌道回路の短絡を防ぐための必要高さである。

②上述の 710mm以内でRC高架橋スラブ施工の必要高さを確保する必要がある。そこで、スラブ施工に必要な高さとして、桁下空間を原則 200mm以上とする。

③スパン割については、下部工・基礎工の設置位置によって決定されるため、これを十分に考慮すること(なお、詳細は(2)下部工・基礎工を参照)。

④本設構造物構築後、下り線を高架仮線から計画線への切替が容易に行える構造形式とすること。

 上記の計画条件より、仮受上部工としては次の3案が考えられた。
 第1案:横桁・槽状桁一体化構造案(提案する構造形式)
 第2案:枕木抱込み桁構造案(実績多少あり)
 第3案:敷き桁構造案(実績多数、最も標準的な仮受構造)
 上記の構造形式を検討した結果、第2案、第3案は、
 ①中間支持が必要となり、この設置が不可能である。
 ②スラブ施工に対する桁下空間が僅かであり、施工が不可能である。
ことより、適用できない。よって、計画条件に最も合致する第1案の横桁・槽状桁一体化構造案に決定した。ここに、横桁・槽状桁の取付部詳細図を図-3、使用部材一覧を表-2に示す。

図-3 横桁・槽状桁の取付部詳細図[図-3 横桁・槽状桁の取付部詳細図]

表-2 仮受構造の部材一覧[表-2 仮受構造の部材一覧]

(2)下部工・基礎工
 下部工・基礎工の設置位置を決定する際に、留意した主な内容は次の通りである。

①できる限り本設構造物と兼用できる構造とすること。

②本設構造物が兼用できず、仮受構造の基礎工が必要となる場合は、本設構造物の構築に支障しないこと。

上述の内容について区間ごとに検討した結果、採用案を次のように決定した。

①2R4-10・C3~C5の仮受杭(①、③、⑤通り)は、L2通りの上り線部本設基礎杭と兼用とした。兼用方法は本設地中梁袴部を拡幅し、その上に仮受柱を設置した (図-2(b)参照)。しかし、本設基礎杭の間隔が10mであり、10m毎に横桁を設ける場合は桁高制限を守ることが不可能である。よって、②、④通りに中間受として①~③と③~⑤通り間に縦梁を設けてスパンを5mとした(図-1参照)。

②2R4-11・C1~C3の仮受杭はL1通りの下り線部本設基礎杭が後施工(未構築)のため、兼用できない。そこで、仮受支持として鋼管杭・柱(⑥~⑧通り)を 7.5m間隔に設置した(図-1、2(d)参照)。この設置位置は、前述の桁高制限後施工となる本設構造物に対する近接施工より決定した(図-1参照).また、⑨通りは軌道スラブ上にて上部工の支承が設置できるため、仮受杭・柱は設置しない(図-1参照)。しかし、軌道スラブ中央部に2R4-10・C1、C2、2R4-11・C4、C5と同様、補強用H鋼支柱を本設地中梁上に設置した(図-2(a)参照)。

③2R4-10・C5~2R4-11・C1通り間のS-41RC単版部は橋長10mであり、桁高制限により仮受スパンを5mあるいは7.5mのいずれかに設定する必要がある。この区間には工事用踏切道の設置計画もあり、工事用車両の通行の妨げにならないようにするため、2R4-11側と同様仮受スパンを 7.5mと決定した。さらに、この区間にはRC高架橋が位置しないため、鋼管ラーメン構造にて軌道を仮受することとした(図-1、2(c)参照)。

 ここに、採用した構造案の使用部材一覧を表-2に示す。
 基礎工の設置位置は、後施工となる本設構造物の近接施工となるが、これの構築に支障のない位置に設定した。

あとがき

 種々の軌道仮受方法はあるが、本計画による仮受構造は、

①用地の制限により、地上仮線と計画線が交差する場合、本計画による軌道仮受工を設置することにより、狭隘な施工ヤードにおいても本設構造物RC高架橋を構築することができる。ただし、RC高架橋は3分割以上の施工段階が発生する。

②仮受上部工の横桁・槽状桁を一体化構造にすることにより、全桁高をかなり低く抑えることができる。すなわち、桁高制限がある場合はとくに有効な方法である。

③本設構造物の軌道スラブと仮受上部工との離隔が非常に狭いが、仮受上部工の桁高を低くできることより、仮受上部工直下の軌道スラブが施工可能な空間 200mm以上(実際には 270mm)を確保することができた。ただし、横桁・槽状桁接合部直下の支点部のみ空間は20mmとなる。

などの特徴を有している。今後、営業線直上にてRC高架橋を構築する場合の軌道仮受方法の一手法として参考になると考えます。

謝辞

 本報告の作成にあたり、ご指導、ご助言およびご協力いただきました近畿日本鉄道株式会社ならびに関係各位には深く感謝の意を示す次第です。

参考文献

1) 近畿日本鉄道株式会社:第51回保線講話会講演概要。平成11年3月。

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