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反力分散支承を用いた
連続する多径間橋梁の耐震設計について

技術部

  • 猟山 勝次
  • 奥平 敬
  • 真茅 慎一郎

論文要旨

 兵庫県南部地震発生以後、道路橋において反力分散支承を用いた橋梁が、本格的に採用されるようになった。また、平成8年度道路橋示方書1)もこれに対応して、反力分散橋梁に対して従来の静的解析法が適用できるよう、1連の橋梁が耐震設計上独立している場合については設計振動単位の定義とその固有周期の算 定方法が示された。
 今回検討対象となった高架橋は、橋種・橋長・径間数の異なる10連の橋梁を、一部分を除いて全支点反力分散支承とする計画である。このような橋梁を従来 設計法に沿って設計する場合、解析モデルを設計振動単位に分割し、桁のかけ違い部での隣接橋梁同士の相互影響を解析に取り入れなければならないが、道路橋示方書(以下、道示と記す)やその参考資料である質問・回答集2)3)4)には、その方法が動的解析を行う以外示されていない。
 そこで筆者らは、この様な橋梁にも対応可能な静的解析モデルを提案し、動的解析による検証を行った。その結果について報告する。 キーワード:反力分散支承、動的解析の簡便法、平成8年道路橋示方書

まえがき

 反力分散支承を用いた橋梁は、従来の固定・可動型橋梁に比べ、地震力を複数の下部工に分担させることができ、バランスのとれた下部工の設計が可能になるだけでなく、これに用いるせん断型ゴム沓は、変形性能が優れるため、耐震設計上有利な橋梁形式である。  耐震設計で従来から主流の静的解析法は、動的解析の簡便法で、その解析手順は、①振動単位を定義し、②振動単位毎に固有周期を算出し、③あらかじめ固有 周期毎に用意した地震力を、その応答値に見合う静的荷重として振動単位毎に載荷する、である。この手法を用いれば作業が複雑で手間のかかる動的解析をあらかじめ行っておくため、個々の構造物の設計では、静的解析のみ行えばよく、設計コストは動的解析に比べ格段に安価となる。
 今回、設計の対象となった橋梁は図-1に示すように、起点側から3径間連結ポステンT型桁、2径間連結プレテン床版桁、3径間と6径間連続プレキャスト セグメントPC箱桁が合計4連、3径間連結ポステンT桁、単純ポステンT桁、単純プレテン床版桁が2連からなる全長1050mの連続高架橋であり、既設橋 脚を使用する部分以外、全ての支点で反力分散支承を用いる橋梁として計画されている。
 このような連続する反力分散橋梁を簡便法で設計する場合、振動単位の設定には、①1連の橋梁を1つの振動単位とする、②高架橋全体を1つの振動単位とする、の2つの方法が考えられる。しかし、これらは両者とも解析上の問題点がある。つまり、②の場合、簡便法は地震の影響を振動単位毎の応答値で算定するが、その影響が振動単位内のみならず、隣接橋梁からも影響をうける場合、その解析モデルの設定に問題があり、②の場合、橋梁は1連毎に異なる振動特性を持つにも拘わらず、全体を1つの振動特性で代表することに問題がある。
 道示ではこのように、静的解析では地震時の挙動を十分表せない場合、動的解析を行うものとすると記されている。これを適用すると、解析は高架橋全区間一体でモデル化を行う必要があが、動的解析は設計コストが高価なだけでなく、今回の業務は設計工区が3分割されており、一体として解析する場合、業務遂行上の問題ともなる。  そこで筆者らは、このような橋梁を簡便法の枠内で設計することを前提に、隣接する橋梁の影響を考慮した橋梁1連毎の分割解析モデルを提案し、動的解析を行うことによって、提案モデルの妥当性を検証することとした。

図-1 橋梁全体図[図-1 橋梁全体図]

1.簡便法の耐震設計手順

 簡便法の設計手順の概略を図-2に示す。図-2は、1連の橋梁が単独である場合の例である。
①対象構造物に対して振動単位を定義する。
②振動単位内では、地震時挙動が1自由度系振動となるものとして、式-1により固有周期を算出する。

③地震力は、あらかじめ1自由度モデルを対象とし、固有周期毎に動的解析を行って応答値を算出しておく。道示では、設計水平震度スペクトルがこれにあたる。 ④対象構造物に作用する地震力は、②で求めた固有周期と③で用意しておいた水平震度スペクトルから算出する。 ⑤④で算出された水平震度を静的に載荷し、対象構造物の設計を行う。

図-2 簡便法の設計手順[図-2 簡便法の設計手順]

2.振動単位の定義

 道示に示される振動単位は、上部工とそれを可動支承以外で支持する全ての下部工を1つとして考えるものである。よって、2連以上の橋梁の場合、図-3に示すように、桁のかけ違い部で少なくとも片方の橋梁が可動支承である場合については、振動単位を明確に分割できる。

図-3 橋梁2連の振動単位[図-3 橋梁2連の振動単位]

3.振動単位分割の問題点

 図-4に本高架橋と同じく、桁のかけ違い部を含めて全て反力分散支承で支持された複数連の橋梁を示し、振動単位分割の問題点を考える。①に示すように隣 接2連の上部工は、かけ違い部で分離しているため、振動単位は左右の橋梁で別である。この場合、②に示すようにかけ違い橋脚は、分離した2つの振動単位それぞれに含まれることとなる。このためかけ違い橋脚は、隣接する振動単位からの影響をうけることになり、分割モデルは、これを何らかの形で考慮する必要がある。また、2つの振動単位の固有周期が異なる場合、逆位相、近似する場合、共振といった動的挙動特有の現象が、構造物の応答値に影響を及ぼす可能性がある。
 本稿の目的は、これらの影響を考慮できる静的分割解析モデルを提案することにある。
 また、解析モデルの妥当性を検証するための着目点は、部材応力・固有周期・変位の3つがある。これらのうち変位については、部材塑性変形量が支配的要因 であり、前述の影響が、設計上問題となることはないと考えた。よって、部材応力・固有周期の2点に着目し、検証を行うこととする。

図-4 橋梁2連、全支点反力分散支承[図-4 橋梁2連、全支点反力分散支承]

4.検証の手順

 今回の問題を、1自由度系振動理論を基礎とする簡便法に、理論的に組み込むことは困難である。よって、分割モデルは試行的に作成することとする。また、 最終的に全体構造系での動的解析に対して設計上安全側の解析結果が得られることを確認することで、モデルの妥当性を検証することとする。
検証の要領を以下に示す。
(1) 部材応力
  部材応力は、下部工下端の曲げモーメントに着目する。手順は、以下の通りとする。

①まず、静的解析を行い、全体構造系に精度良く合致する分割モデルを考える。
②つぎに、全体構造系に対して動的解析を行い、動的挙動の影響を考慮できるよう分割モデルを再考する。

(2) 固有周期
  全体構造系、分割モデルともに固有値解析により固有周期を算出し、両者の比較を行う。

5.検証用構造モデル

 検証用構造モデルは、今回設計対象となった10連の橋梁全てに対してモデル化を行うことが理想であるが、簡単のため、部分的に2連の橋梁を取り出し、こ れを全体構造系とすることとした。2連の抽出にあたっては、動的挙動が振動系の固有周期に依存していることから、固有周期の近似するもの(3径間連結ポス テンT型桁と2径間連結プレテン床版桁)と、固有周期の大きく異なるもの(2径間連結プレテン床版桁と6径間連続PC箱桁)の2箇所を選択することとした。また、寸法・重量・断面諸値等については、簡単のため実際の橋梁をデフォルメしたものを使用した。
 解析モデルを図-5(a)(b)に示す。

図-5(a) 解析モデル1[図-5(a) 解析モデル1]

図-5(b) 解析モデル2[図-5(b) 解析モデル2]

6.解析条件

(1)設計地震力
 静的荷重:Kh=0.25(震度法、Ⅱ種地盤)
 動的荷重:震度法Ⅱ種地盤適合波(H2.道示Ⅴ)
(2)部材変形性能
 部材線形
(3)減衰定数
  全ての部材についてh=5%
(4)動的解析の積分法
 直接積分法(ニューマークβ法)
 ここで、設計地震力を震度法レベルとし、部材を線形としたのは、以下の理由からである。

①本来であれば設計の決定ケースとなる保耐法レベルの地震力を用いるべきであるが、保耐法レベル地震力を作用させた場合は部材に非線形性を考慮しなければならず、解析が複雑となる。

②部材が線形であれば全体構造系と分割モデルの解析結果の比較は断面力において行えばよいが、非線形性を考慮すれば塑性率を含めた比較となりこれも複雑となる。

③震度法レベル地震波は平成2年道示Ⅴ5)に明記されている。また、減衰定数h=5%に対する加速度応答スペクトル(図-6)は、水平震度スペクトルに対してばらつきが少なく、わずかな固有周期の差で、解析結果が影響をうける可能性が少ない。

また、減衰定数を5%一定としたのも③の理由からである

図-6 加速度応答スペクトル[図-6 加速度応答スペクトル]

7.分割モデル

 分割モデルは、かけ違い橋脚が隣接振動系から影響をうけることに着目し、作成することとした。隣接振動系の影響を、静的水平力が作用するものとした場合、以下の2とおりのモデルが考えられる。

①隣接する橋梁の影響を重量の形でモデル化する。

②下部工を2連の橋梁からの影響程度で分割し、モデル化する。

 ここで、②は実際に存在しない形で下部工をモデル化する必要があり、作業が繁雑になると考え、より簡素な①の方法を採用することとした。
 また、影響分の重量については設計の利便性を考え、隣接橋梁の鉛直反力とし、載荷位置としては、下部工天端とした。個別解析モデルを図-7(a)(b)に示す。

図-7(a) 部分解析モデルおよび解析結果(解析モデル1)[図-7(a) 部分解析モデルおよび解析結果(解析モデル1)]

図-7(b) 部分解析モデルおよび解析結果(解析モデル2)[図-7(b) 部分解析モデルおよび解析結果(解析モデル2)]

8.静的解析による検証

 静的解析による全体構造系と分割モデルの解析結果を表-1に示す。
 全体構造系に比べ、分割モデルの解析値が下回っている箇所があり、最大3.9%である。しかし、その差はわずかなので、分割モデルは十分な精度を有している。

表-1 下部工下端モーメントの比較(静的解析)[表-1 下部工下端モーメントの比較(静的解析)]

9.動的解析による検証

 静的解析による全体構造系と分割モデルの解析結果を表-2に示す。
 動的解析で行った全体構造系の解析値を下回る分割モデルの解析値は全くない。この理由は、固有周期の異なる振動系が相互に干渉し、地震力を打ち消し合っ たためと考える。つまり、当初懸念していた動的挙動による下部工への悪影響はなく、2つの分割モデルは、安全側に設計できることがわかった。
 また、隣接2 橋梁の固有周期差と、動的解析と静的解析の解析値の差との関係は、隣接2橋梁の固有周期差が大きければ動的解析値は静的解析値を下回り、その逆は、双方の解析値が近似することがわかった。固有周期が近似するとは、隣接2橋梁が1つの振動単位に近い挙動となることと同義であり、共振の影響もなく、動的解析と静的解析の値が近似することとなった。また、隣接2橋梁の固有周期差が大きくなった場合、静的解析が安全側の結果を示すことがわかったことで、本モデルに よる解析値は常に安全側になると判断した。

表-2 下部工下端モーメントの比較(動的解析)[表-2 下部工下端モーメントの比較(動的解析)]

10.固有周期の比較

 固有周期の比較結果を表-3に示す。その差は最大1.5%である。これを単純に水平震度に換算した場合、震度法Ⅱ種地盤地震力であれば固有周期T=5sec付近で最大1%以内の誤差であり、設計上問題のない精度である。

表-3 固有周期の比較[表-3 固有周期の比較]

あとがき

 以上のように全支点反力分散支承を用いた連続する多径間橋梁を簡便法で解析するために、解析モデルの提案を行い、動的解析によって検証した。著者らが提案した解析モデルは、動的解析結果に比べ安全側に設計できるものであり、設計モデルとしては妥当と考える。
 今回、動的解析を行った結果が分割モデルの解析値を上回るようであれば、別のモデルや解析値の割り増し係数の提案も考えていたが、結果的にこの必要はなかった。
 そして、これにより高架橋全体をモデル化する大規模な動的解析を行うことなく、かつ、設計工区分割の枠内で業務を終えることもできた。
 ただし、今回提案した解析モデルの妥当性は理論的に立証したものではなく、解析実験的に明らかにしたものであるので、今後より複雑な構造物の設計が必要となった場合は、今回と同様、動的解析による検証を行った上で簡便法の適応の是非を判断する必要があると考える。
 末筆となりましたが、本稿の作成にあたりご指導、ご協力いただいた三重県四日市建設部ならびに関係各位には深く感謝の意を示す次第です。

参考文献

1)(社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅴ
  耐震設計編 平成8年12月
2)平成8年道路橋示方書・同解説に関する
  質問・回答集(1) 平成9年9月
3)平成8年道路橋示方書・同解説に関する
  質問・回答集(2) 平成10年5月
4)平成8年道路橋示方書・同解説に関する
  質問・回答集(3) 平成11年3月
5)(社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅴ
  耐震設計編 平成2年2月 P161

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