
近鉄奈良線
瓢箪山駅橋上駅舎化等工事について
技術部
- 次長 岡本 森廣
- 主任 北川 浩二
論文要旨
近鉄瓢箪山駅橋上駅舎化工事において○官民の協力による環境整備がおこなわれたこと。
○関係法令による許認可等の手続き等が多岐におよんだこと。
○デザイン検討について格段の配慮がはらわれたこと。
○福祉、高齢者対策の整備により「大阪・こころふれあうまちづくり賞」の大阪府知事特別賞を受賞したこと。
など橋上駅舎化工事概要についてまとめました。
キーワード:環境整備、許認可、デザイン検討、福祉対策
まえがき
奈良線瓢箪山駅は、東大阪市の南東部に位置し、外側に待避線2線、内側に通過線2線、両待避線の外側に相対式乗降場2面を有する各停停車駅で、1日当た りの乗降客は35、407人(平成4年11月の交通調査による。)を数え同線の各停停車駅では最も乗降客が多いのですが、駅舎が南北に別れており、線路を挟んで向い側の乗降場へは奈良方に隣接の瓢箪山1号踏切道を渡る施設配置となっているため、同踏切道の通行量(午前7時から午後8時まで車両通行禁止)が 1日当たり36,597人(平成6年5月12日の調査による。)と著しく多くなっています。東大阪市では、奈良線の連続立体交差計画の中で同駅の整備を進める構想でしたが、平成元年には連立事業の範囲から同駅がはずれたことになったため、同駅についてはかねてより橋上または地下駅舎の建設による整備の申し出が近鉄にありました。近鉄では、駅乗降客の利便向上と安全確保を図るためこの申し出に応じることとし、東大阪市と種々協議を重ねられた結果、橋上駅舎建設工事を実施するとともに、この際あわせて瓢箪山第1踏切道内にある分岐器を踏切道外に移 設し、運転保安の一層の向上を図ることとなりました。
一方、大阪府では一級河川、御神田川の河川改修を行い、親水空間をもったポケットパークの構築、東大阪市は下水排水管のふせ替え及び踏切の安全性と利便 性向上を図るべく駅舎内に構外自由通路や行政のワンストップサービスを図るサービスコーナーを設ける等環境整備が官民で計画されました。
[東側外観]
2.橋上駅舎化計画の概要
(1)設計コンセプト瓢箪山駅東側の道路沿いには賑わいのある商店街があり、その周辺を閑静な住宅街が取り囲んでおり、乗降人員は約3万5千人と奈良線でも比較的多い駅で す。既存駅は上り下り別々の木造地上駅舎でかなり老朽化が進んでいましたが、今回平成9年10月開催の大阪国体「なみはや国体」の会場のアクセス駅になることや、すぐ近くで大阪府が施行する河川改修事業および東大阪市の下水道事業と同時に施工する必要が出てきた事などから近鉄としても新しく橋上駅舎化する こととしました。
瓢箪山という名前は、近くに形状が瓢箪の形をした双円墳を祀っている瓢箪山稲荷という神社があり、この名をいただいて駅名としたものです。周辺は東大阪市の商業発祥の地といわれており、神社も商売の神様として崇拝されています。またこのあたりは山畑古墳群といわれるたくさん古墳が残る地域でもあり、古くは聖域としての性格をもっていたと考えられています。
南北朝時代に楠木政行(まさつら)が活躍したのもこの地です。また天正十一年太閤秀吉が、金瓢、桶狭間合戦の手柄として信長より拝領した菖蒲の小太刀、戦陣に着用した桐模様差縫入陣羽織一着をこの神社に奉納したという歴史的事実もあります。
この地域の文化・風土・歴史性から駅舎の形態は瓢箪を連想するような、また周辺の生駒の山並みにつながって行くようなドーム状の屋根をした形態としました。建物全体としては、軽快でシャープなデザインで構成し、現在と未来の近代的な発展をイメージさせると共に、外部や内部に行灯・障子など和風のデザイン要素を持ち込むことで歴史や文化を感じさせることをねらっています。またこの地が京阪神地域から見れば奈良・大和への入り口であり、奈良・大和から見れば商都大阪への入り口であるという事からゲート的で存在感のある形態としました。内部については、屋根のドーム状の形態が室内にいながら感じられるように屋根の野地板をそのまま天井とし、主体構造のアーチトラスを露出させ、小さいながらもダイナミックな空間としています。母屋材で構成している斜格子の一部に パンチングパネルをはり、全体的に粗野な感じにならないようにしました。線路上の東・西の外壁は床上から全てガラススクリーンとし開放感あふれる空間とし ています。その結果、東側には間近に生駒山の木々の姿が見て取れ、生駒の四季を満喫出来るすばらしい駅ができあがったと思います。
施設については駅施設の他にバス業務施設や商業施設等を併設しており、地下1階に駐車場、1階に銀行営業室・バス出札室・バス乗務員詰所・2階に銀行事務室・3階に駅業務施設・行政サービスコーナー・飲食施設としています。
設備については各諸室の標準設備は当然ながら、夏場の室温の上昇対策としてコンコースにスポット冷房を設置し ています。また身体障害者や交通弱者対策として車椅子対応型のエレベーターを構内外に4基、1200型エスカレーターを構内外に4基設置しています。この うち構外下り側のエレベーターについてはスルー型のエレベーターとしており、利用者にとっては非常に使いやすいものとなっています。
構造については北側の(4階建)と線路上空部(2階建)、南側駅舎部のそれぞれについて、変形・剛性・断面設計を行いレベル3を確保しています。また基 礎については種々の検討の結果浅層地盤改良(貧配合コンクリートによる置換)による直接基礎で設計し現地盤の確認とサンプリングによる試験等を行いながら施工しました。
またこの橋上駅舎化にあわせて、老朽化したホームおよびホーム上家の改築や待合室の新設を行っており、駅新設の利便性は数段に向上しました。さらに大阪 府の河川改修事業により、ボックス化した河川の上に上水を使ったせせらぎと遊歩道が作られており、駅および駅を取り巻く周辺の整備が完成した事で景観は昔と比べると見違えるほどきれいになっています。
[東立面図]
[東側外観]
[ホーム]
橋上駅舎階段・ES設置に伴い、ホームおよび上家を確保するため布施方に上り27.5m、下り20mを延伸し、上り33m、下り30mを改修しました。上 下ホーム上家共ホーム拡幅により上家幅は上り3.9~7.3m、下り2.8m~7.9mとし、総上家長は上り137.3m、下り84.7mとしています。
ホーム階には、上下共待合室を設けることとしました。
[駅後方施設]
施工敷地範囲が狭小なため仮設計画・施工順序および店舗計画上北駅舎西側隣接の店舗ビルを先行買収し、駅後方施設として改修を行い橋上駅舎の3階駅務室と2階信号扱室とにそれぞれ接続し、業務の連携を考慮しました。
[橋上駅舎]
北駅舎は構外店舗の計画もあり、駅後方施設(仮眠室・更衣室等)を隣接建物に収容し橋上部3階には、駅務室・便所・自動券売機室・売店を配置することに し、北側外コンコースと隣接し、店舗としてミスタードーナツ・行政サービスコーナーを配置しました。行政サービスコーナーについては、施工中に東大阪市の 要望により計画され隣接の構外EVをスルー型に計画変更を行いスペースを確保しました。
2階には、北側に店舗として銀行および店舗用電気室等を、南側にコンコース用室外機置場を計画しました。
1階には、北側に2階同様銀行および受水槽ポンプ室等を、南側にバス出札室・券売機室および電気室等を計画しました。
北側道路の形態上地下1階スペースを利用して銀行用駐車場および自転車置場を、共用でゴミ置場を計画しました。
北側駅前広場として、近鉄タクシー用のロータリーを設け、タクシー乗降場および歩道部に山並みをイメージした上家を計画しました。
[連絡施設]
1階と3階の連絡階段は、全てを直接階段とし構外は奈良方の1号踏切より南北1箇所ずつ設置しました。構内はホーム奈良方に上り下り各1箇所ずつ設置する ことにし、構内外共ES(1200型)をそれぞれの階段に併設することにしました。階段幅員については、構内外共2.8mとしています。また、構内外共 (11人乗り)を南北1基ずつ設置することにしました。
[バス施設]
先にも述べたように橋上部南側1階にバスの出札室および券売機を設置することにし、橋上駅舎との総合化を計り、上りホーム上家柱を兼用で待合室およびベン チ、それに敷地がないためホーム下を利用して誘導員の詰所を設置することにし、既設位置とほぼ同じ位置に復旧しました。
以上のように施設動線、各施設の機能確保、美観等に重点をおいて昇降設備および階段も含めた各施設の配置を決定しました。
[構内コンコース]
(3)高齢者・身障者対策
段差には1/15の勾配のスロープ、車椅子対応エレベーター(インターホン付)、構外下り側のエレベーターについては出入口がわかりやすい様スルー型の エレベーター、車椅子対応便所(男女共用)、盲人用誘導ブロック、階段2階手摺り(点字シール付)、一般用便所手摺り(洋式)、女子便所にベビーシート・ ベビーキープ、待合室に車椅子スペースの確保、点字券売機、車椅子対応有人改札機(パスチェックフェアシステム対応)を設けています。
また、コンコース東面、西面のガラススクリーン前にはちょっとした休憩に使えるようパイプベンチを手摺と兼用して設けています。
これらの整備により、大阪府から福祉の適合証の交付を受けています。また、第5回「大阪・心ふれあうまちづくり賞」に推薦され、審査の結果『大阪府知事特別賞』を受賞いたしました。
(4)店舗計画
瓢箪山駅の駅周辺は南北に商店街が連なり、布施周辺に次ぐ商業集積を持ち、東大阪市内東部の中心商業地区と位置づけられているため、旧北側駅施設の跡地に駅周辺整備の一環として橋上駅舎に接続する店舗建物が計画されることになりました。
テナントについては、1階および2階に大和銀行、3階には従来1号踏切道の南東角で営業していたミスタードーナツ店舗の移転が計画されました。
建物については、駅舎と一体であるため駅舎同様瓢箪形や生駒の山並みをイメージするドーム状の屋根としています。
もう一つテナントとして施工途上に計画が上がってきたものに市の行政サービスコーナーがあります。業務形態としては、朝出勤時に住民票や印鑑証明等の受 付を済ませると、帰宅時には書類を受け取る事が出来るという時間外業務を行うもので、駅施設と行政施設の複合は今後の駅のあり方として一つの方向を示して いると思われます。近鉄の駅としては初めての施設です。
2.あとがき
本工事については、大阪府の河川改修事業との工程調整上工事日数に制限を受けたうえ、平成9年10月の大阪国体までに完成する必要があり、非常に苦しい工期でした。
さらに駅を使いながらの施工であった為客動線を何度も切り回し、乗降客にご不便をおかけしながら部分施工を繰り返すという効率の悪い工事でした。このよう な非常に厳しい施工条件にもかかわらず当初の予定通り完成を迎えられたのは近鉄およびJVの現場事務所の方々をはじめ鹿島建設設計部の方々、各種協議に御 指導いただいた東大阪市、大阪府の方々のご協力の賜と深く感謝しております。
また今回この様な工事に関与できたこと、ならびに論文作成にあたり多大なご協力をいただきました近鉄建設改良局中山部長をはじめ局員の皆様にはこの場をお借りしまして、心より御礼申し上げます。
建築概要
(a)橋上駅舎工事場所 | 東大阪市昭和町4番1号 (東大阪市昭和町873-2他 全54筆) |
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建築主 | 近畿日本鉄道株式会社 | ||||||||||||||||||||||||||||
総合監理 | 近畿日本鉄道株式会社 建設改良局工事部 | ||||||||||||||||||||||||||||
施工監理 | 全日本コンサルタント㈱・鹿島建設㈱ | ||||||||||||||||||||||||||||
施工業者 |
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地域地区 | 近隣商業地域、第2種住居専用地域、準防火地域 | ||||||||||||||||||||||||||||
主要用途 | 鉄道施設(駅舎) | ||||||||||||||||||||||||||||
敷地面積 | 5,927.97㎥ | ||||||||||||||||||||||||||||
建築面積 | 841.81㎥ | ||||||||||||||||||||||||||||
延床面積 |
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構 造 | 鉄骨造(店舗部耐火被覆有り) | ||||||||||||||||||||||||||||
階 数 | 3階 |
工事場所 | 東大阪市昭和町887-20 |
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工事場所 | 東大阪市昭和町887-20 |
建築主 | 近畿日本鉄道株式会社 |
総合監理 | 近畿日本鉄道株式会社 建設改良局工事部 |
施工監理 | 全日本コンサルタント㈱・鹿島建設㈱ |
施工業者 | 建築設備工事 鹿島建設㈱・大日本土木㈱ 共同企業体 |
地域地区 | 近隣商業地域、準防火地域、市街化区域 |
主要用途 | 駅後方施設 |
敷地面積 | 181.48㎥ |
延床面積 | 429.80㎥ |
構 造 | 鉄筋コンクリート造 |
階 数 | 地下1階、地上3階 |
各種申請手続き
届出書類名 | 関係先 | 日付 |
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河川法第55条許可申請書 | 大阪府知事 | 平成7年12月 7日認可 |
東大阪市中高層建築物等指導要綱協議申出書(新規) | 東大阪市長 | 平成7年10月18日認可 |
鉄道施設変更認可申請書 | 近畿運輸局長 | 平成7年11月20日認可 |
特定施設設置工事事前協議書 福祉のまちづくりのための都市施設協議書 |
東大阪市市長 | 平成7年10月26日協議 |
特定施設設置工事事前協議書 | 大阪府知事 | 平成7年12月25日協議 |
公共下水道制限行為許可申請書 | 東大阪市市長 | 平成7年11月 8日認可 |
排水設備計画確認申請書 | 東大阪市市長 | 平成7年11月 8日認可 |
建築確認申請書 | 建築主事 | 平成7年12月28日確認 |
仮使用承認申請書 | 東大阪市市長 | 平成9年 4月 9日認可 |
特定施設設置工事事前協議書 福祉のまちづくりのための都市施設完了届出書 |
東大阪市市長 | 平成9年 9月25日届出 |
特定施設設置工事完了届出書 | 大阪府知事 | 平成9年12月25日届出 |
建基法12条3項による報告書 | 大阪府知事 | 平成7年12月 7日認可 |
建基法12条3項による報告書 | 建築主事 | 平成9年 7月11日報告 |
工事完了届・検査済証 | 建築主事 | 平成9年 7月31日交付 |
整備基準適合証交付申請書 | 大阪府知事 | 平成9年11月 5日交付 |
防火管理計画届出書 | 東消防署長 | 平成9年 4月 8日届出 |
消防用設備等設置届出書 | 東消防署長 | 平成9年 7月15日届出 |
防火対象物使用開始届出書 | 東消防署長 | 平成9年 7月17日届出 |
汚水桝設置申込書 | 東大阪市下水道 | 平成9年 1月23日申込 |
給水装置工事施工申込書 | 東大阪市水道局 | 平成9年 7月 9日申込 |
簡易専用水道給水開始届 | 保険所長 | 平成9年10月 6日届出 |
仮設上り申請 | ||
建基法85条4項による許可申請書 | 東大阪市市長 | 平成7年10月18日許可 |
建築確認申請(仮上り駅舎・便所) | 建築主事 | 平成7年11月 1日確認 |
工事完了届・検査済証 | 建築主事 | 平成7年12月14日交付 |
防火対象物使用開始届出書 | 東消防署長 | 平成7年12月20日届出 |
仮設下り申請 | ||
建基法85条4項による許可申請書 | 東大阪市市長 | 平成8年 3月12日許可 |
建築確認申請(仮下り駅舎・便所) | 建築主事 | 平成8年 3月29日確認 |
工事完了届・検査済証 | 建築主事 | 平成8年 5月 7日交付 |
防火対象物使用開始届出書 | 東消防署長 | 平成8年 5月 2日届出 |